授業時間が多いほど身につきにくい理由
今や海外留学先として人気も高まり認知されてきたフィリピン。留学者数もアメリカ、オーストラリア、カナダに次いで第4位に浮上しています。(2018年度)
人気の理由として挙げられるのが「マンツーマン授業」です。
その他の留学先ではグループ授業が主で、生徒数も多く、これから英語を身につけたい人にとっては発言機会が少ないため十分な練習ができないことが多いようです。
しかし、フィリピンではマンツーマン授業が主の学習カリキュラムなので、一日に40分~50分のマンツーマン授業が数コマ受けられます。実際に面と向かって「英語を話す」練習時間が圧倒的に多く、その積み重ねで英会話に慣れることができるのです。
さらにその価格帯も他国に比べて安いことからコストパフォーマンスが高く、初心者が英語を身につけるファーストステップとして、留学先に選ぶ方も増えています。
フィリピンの語学学校が現在のように学校数も多くなかった頃は、マンツーマンが4~5コマにグループ授業が数コマあって、一日の授業数は6~7コマでした。
それが徐々にマンツーマン授業やグループ授業の多い学校が増え、いつしかしのぎを削るようにマンツーマン授業数が増えてきています。
今では一日マンツーマン授業だけで10コマ受けられる学校があるほどです。また、マンツーマン授業だけに限らず一日に10時間以上もの授業が受けられる学校も珍しくありません。
一日にそんなに授業が受けられると聞いてどのように感じますか?
「なんてお得だ!」と思った方は注意です。一日に授業をたくさん受ければそれだけ英語力が伸びるとは限りません。以下のような懸念点があることも念頭に検討しましょう。
懸念点1:集中力が持たない
私たちは義務教育の中で1日に多くても7コマの通常授業を受けてきました。それを思い出してください。授業数は足りなかったでしょうか?頭は疲れなかったでしょうか?
一見、一日の授業が多い方が(特にマンツーマン授業)とてもお得に感じます。そして一日のほとんどの時間が授業なので身につくスピードも早い、と思うかもしれません。
しかし実際に受けてみるとすべての授業を同じコンディションで受けられる人はごく稀でしょう。集中力を高める訓練を特にしていない一般人の集中力は25分ほどと言われています。その後は何も考えない休息が必要なのです。
懸念点2:頑張っているという満足感
一日中授業を受けていれば「勉強をたくさんしている」という感覚になります。
そこに非効率なことや無駄なことがあっても気が付かずに、「これだけやっているんだから身につくだろう」と時間をかけている分だけ充足していると錯覚し、見直す体力もなく、ただただ満足感に浸りながら毎日を過ごすことになります。
ここで注意したい点は、「満足感と効果の高さは比例しない」ということです。
懸念点3:アウトプットできるものが少ない
マンツーマン授業では、黙って聞いている時間よりも、読む、書く、話す、意見を述べるなどという時間が長くなります。
その時間では、自分が持っている英語力以上のものを表現することはできません。そのため十分なインプットをしておく必要があるのです。
例えば、ボキャブラリーを勉強しておくことで実践において表現の幅がひろがりますね。
反対に英語でなんて言えばわからないことを伝えるのは非常に難しいです。つまり中身が空のボトルからは何も出てこないのです。
授業では新たなことを教わりますが、それは復習や使うことによって身についていくものですから、結局はインプットをするための自習、復習の時間が十分に取れなければ授業で発揮することができないのです。
3食の食事をまとめて一気に食べられますか?
一日に授業を詰め込んで勉強しても、残念ながら実際に身につくものはそれほど多くはなく、授業で習ったことの大部分は定着することなく忘れてしまいます。そしてまた翌日を迎えて、、、という繰り返しになります。
食事や運動でも同じことが言えます。
1回の食事で大量に食べたとしても、すべてが栄養として身体に取り込まれはせずに排出または余分な脂肪として蓄積されてしまいます。仮にそれを数日繰り返してもいずれ体調を崩してしまうでしょう。
運動でも練習やトレーニングを一日中していても、それを毎日繰り返したところでパフォーマンスは大した向上せずに、疲労が溜まりケガのリスクが高まることは容易に想像できるでしょう。
では何が大事なのかというと、
食事→消化のための時間が必要
運動→休憩や休息が必要
このようなサイクルが必要なので、勉強も「授業を受ける→休む→復習する」というプロセスが重要です。
頭と身体を休ませる時間と習ったことを思い出しながら整理する時間です。そうしなければ記憶に定着せずに時間が経つにつれて忘れてしまうのです。
なぜなら、習った内容は1日後には約74%も忘れてしまうという理論もあります。これを復習(想起)せずに過ごせばそれは記憶に定着せずに消え去ってしまいます。要は「使うことができない=身につかない」、ということです。
授業は数をこなすことが目的ではありません、習ったことを体現できるようにすることが本来の目的のはずです。
留学に行く目的は英語力の向上にある方がほとんどだと思いますが、その目的を達成するための手段を間違ってしまっては元も子もないのです。
それでは実際に留学している人はどのようなコースを受講しているのでしょうか。
約7割の人は一般的な授業数のコースを受講
弊社が学校視察で伺ったお話で、すべての学校に共通することは、授業数の多いコースよりも標準的なコースを受講する留学生が約半数以上~70%ほどということです。
その他は試験対策や専門的に特化したコース。授業数の多いコースを選ぶ人は1~2週間といった短期間の留学の方などごく一部。※スパルタの学校で元々授業数が多いコースしかない場合を除く。
標準的とはどんなコースかというと、一日の授業数が6~7コマで、夜は自由な時間があるスケジュールです。このスケジュールを受講している人たちに授業数について尋ねてみると、「授業数が足りない」という回答は1人もいませんでした。
なぜかというと、宿題が出される授業もあるので、夜は宿題をやらなくてはならず、さらに予習や復習もするとなると十分だと感じる人が多いのが実情です。
授業数が多いことで想定される状況
私も過去にスパルタの学校で8:00~22:00まで授業があるコースを約2か月受講していました。※昼食や夕食時間は除く
この時は8コマの授業+単語授業+単語テスト+必須の自習時間
というスケジュールでした。このスケジュールだとどうなるかというと、夜の必須の自習時間で宿題に取り掛かれるものの、自習時間が全然足りず、早起きをして片付ける日も多々ありました。
インプットの時間はなかなか取ることができず、授業内容の復習もままならないまま翌日に授業を受ける、という非効率な毎日を送っていました。
英語力が足りないから宿題に費やす時間が増えてこのような状況になるのでは?と考える人もいるかもしれません。
その意見はごもっともですが、留学に来る目的は「英語力の向上」なのです。初級者が英語力を伸ばすために留学に来ているので、その過程で英語が思うようにできないのは当然です。
私と同様に周りの生徒も同じ状況にあり、英語力を効率良く伸ばすためにみんなの意見は「授業時間をもっと少なくして自習時間が必要」だということです。実際に受けてみると直感的にそのように感じたことは新たな発見でした。
このように、授業数を文面で見て感じることと、実際に受けてみて感じることには大きなギャップが生まれます。
授業数の多さが効率的な英語力の向上につながるかというと疑問点が多々あります。
これから留学される方や英語学習を始める方の参考になれば幸いです。
ただ例外として、ある程度英語力のある方や、英語を使わなくなってしばらく年月が経ってしまっている方のような場合、一日中英語に触れることで昔の感覚を呼び戻す方法としては良いかもしれません。