英会話ができても「バイリンガル」ではない理由

「英会話」に過剰なほど価値を感じていませんか?

留学等を経験していれば、多少なりとも英会話能力が身に付いているという人は多いです。日本では海外の人と日本語以外の言語で会話をできる人がまだまだ少ないせいか、ちょっとでも英語(またはその他の言語)でコミュニケーションがとれる人を見て「すごい!」と感じる人が多いようです。

それと同時に、英語を話せる日本人に対して

「発音がネイティブと比べて全然違う」

「その言い回しはネイティブは使わない」

「下手すぎる英語」

などと批判する日本人もいます。日本人は英語ネイティブではないので当然なのですが…。

どうやら日本では、アメリカ人やイギリス人が話す「ネイティブの」英語こそが「正しい英語」だという認識を持っている人が一定数存在するようです。

アメリカ英語とイギリス英語の両者にも違いがあり、同じ英語圏のカナダやオーストラリア、そして地方によっても違いがあるのに、どういうわけか「ネイティブ」という言葉に対して弱いのか、ネイティブが話す英語が「唯一」正しいという思い込みがあるようです。

このような考えの人は、韓国人も中国人もインド人も、ネイティブの発音とは違う英語でどんどん世界に出て活躍している現状を知る必要があります。そして「英語」というツールをもっと広く捉えたほうがご自身にとってもプラスに働く気がします。

このように、日本では「ネイティブ英語」信仰が強いようですが、その「英語」は世界の数ある言語のうちの一つに過ぎません。

参考:『List of languages by total number of speakers(2019)』を元に筆者が作成

実は英語のネイティブ話者の数は、中国語、スペイン語話者数に次いで世界3位です。

それでも中国語やスペイン語よりも世界的に英語を話す人が多い理由は3つあります。

①ネイティブ話者
②フィリピンのような第二言語話者
そして③日本のような外国語話者

この三者の合計人数が一番多い、という理由です。

参考:『List of languages by total number of speakers(2019)』を元に筆者が作成

このデータから、英語は『ネイティブ話者』よりも『ネイティブではない発音で話している(使っている)人』の方が大多数、ということがわかります。

そのため、ネイティブの発音とは多少違っても、コミュニケーションツールの「英語」として十分に機能し、問題なく使われている場合が圧倒的に多いのです。

英語は多少使えるからという理由で称賛されたり、ネイティブと発音や使い方が違うからという理由で叩かれたりするものではなく、本来はもっと身近に、気軽に使われるべきツールなのです。

3つの種類のバイリンガル

日本人で英語ができる人のことをよく「バイリンガル」だ、と言う傾向があります。

しかし単に「バイリンガル」といっても、『英語を流ちょうに話し、難しい文章も理解できて論文でも書ける』という人もいる一方、『日常英会話はできるが授業等の学習は難しい』という人もいます。

そしてこの両者の能力の差はとても幅があります。

なぜかというと、『その言語を使える』という能力は『二段階』に分かれているからです。

一段階目:【会話言語能力】

その上に

二段階目:【学習言語能力】

が乗っかっています。

簡単に解説をします。

『会話言語能力』とは、その言語で日常の会話やメールのやりとりができる力のことをいいます。この能力の習得は比較的容易で、習得すれば個人差もさほどありません。日本で生まれた私たちが、小さな頃から日本語で会話ができるのはこの能力のことです。

一方『学習言語能力』はその言語を運用する能力、つまり、自分の考えを論理的に話したり書いたりする力。会話に比べて非常に高度な能力です。この力を習得するには、その言語が話されている環境に7年ほど身を置かなければ身に付かないと言われています。

ピンとこなければ、日本語を話す私たちで考えてみるとわかりやすいでしょう。

日本人はほぼ全員が日本語ペラペラですね。「この人の話す日本語の文法はめちゃくちゃだな」と感じることもないでしょう。※考え方や立場の違いで「この人とは話にならない!」という状況は別問題なのでここでは考えません。

このように『会話言語能力』の部分ができていれば、誰しもがほぼ同じような力を持っているからです。

ところが『学習言語能力』に関しては違います。

私たちは日本語のネイティブであっても、学校の授業で行なわれることを理解することや、本を読み解くこと、自分の考えを論理的に説明すること、これらが苦手な人もいれば、本を執筆したり論理立てて主張したり、専門的なことについて解説ができる人もいます。

このように、『学習言語能力』は個人差が非常に大きな能力なのです。これを英語に置き換えて考えると次のような図になります。

表中の①がネイティブ(母国語話者)の人の言語能力を表しています。会話言語能力の上に学習言語能力があります。学習言語能力の部分は個人差があるものですが、ここでは一定とみなしています。

②が「完全なバイリンガル」の状態です。赤が日本語、青が英語の言語能力だと仮定しましょう。日本語と同じぐらい英語もできる人のことです。バイリンガルとは本来こいうった人を指します。

③の「偏重バイリンガル」の状態は、英語の『会話言語能力』だけがある人です。この状態こそ日本人がイメージしている「バイリンガル」です。日本人がよく「あの人は英語ができる」と言った場合、この状態の人が多いです。

④の『限定的バイリンガル』の状態は問題です。母国語も第二言語も会話能力しかない状態です。まだ母国語で学習ができない時期に違う言語の環境に入り、母国語の学習を止めてしまった場合に陥りやすいのだそうです。

このように、バイリンガルにも実際の言語能力によって種類があります。そして私たちが日本にいながらにして完全なバイリンガルを目指すことは、非常に難しいということです。

前述したように、『学習言語能力』はその言語環境に長い年数身を置かなければ養われない能力なのです。

日本でよく耳にする「バイリンガル」の正体は『偏重バイリンガル』という、『会話言語能力』のみを身につけている状態の場合が多いです。

こういった認識を持つことで、的外れな批判をする人も減り、過剰な期待を抱かれなくてもよくなります。

Author: 畠尾 正行

留学カウンセラー兼、新聞やパンフレットの記事も書くライター。動画制作等の芸術分野の活動も行なう。